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日本:金融自由化とバブル経済
日本銀行北京事務所長 福本智之
(2014年4月18日、長江ファイナンスサミットでの講演内容要約)
    中国の金融改革問題について、日本が1980年代に行った金融自由化の角度から比較を行う。金融自由化そのものは理屈上バブル経済を引き起こすとは限らないが、日本において金融自由化がバブル経済を引き起こす要因の一つとなったのは、以下の3つの理由による。
    第一に、金融自由化の順序に問題があった。本来、国内の金利自由化は海外との資本取引の自由化より遅れすぎてはならない。しかし、日本では1980年に外為法が改正され基本的な資本取引の自由化が完了したのに対し、金利自由化は1994年にやっと完成した。この間、海外との資金取引の窓口は開かれていたものの、国内金利の大部分は統制下にあった。日本銀行は仕方なく窓口指導を通じ商業銀行の貸出規模をコントロールする金融政策を行っていた。しかし商業銀行は既に海外との資金取引が自由化されていたため、東京オフショア市場で調達したユーロ円資金を、ロンドンや香港の支店に送り、そこから日本国内の企業へと融資した。日本銀行は、国内の円貸出は窓口指導によりコントロールしていたが、このようないわゆるユーロ円インパクトローンと呼ばれる迂回融資の増加を抑えることができなかった。
    第二に、金融機関のガバナンスの問題があった。戦後以来日本は、「護送船団」方式の下、無制限の預金保護を行っており、銀行のガバナンスを不健全にしていた。金融機関は大蔵省(現在の財務省)に従っていれば存続し続けられると考えがちで、金利自由化に十分な対応をせず、昔ながらの預金と貸出業務構造から脱却できなかった。こうした中で、大企業が自ら債券を発行して資金調達ができるようになった結果、商業銀行は大企業の顧客を失い、その分、中小企業や不動産業への融資の比率を増していった。不動産業への貸付の占める割合は1980年の5%から1995年には15%へと増加した。これが不動産バブルの主因となった。
    第三に、金融自由化の過程で楽観的になりすぎたことだ。当時の日本の与信総量とマネーサプライは同時に2ケタのスピードで急増していたが、物価は安定していた。この状況について多くの人は「金融機関が企業や国民に新しい金融サービスを提供しているからであり、金融イノベーションの成果だ」として余り憂慮しなかった。振り返ってみれば、銀行貸出の増加は民間セクターのレバレッジを高めたにすぎず、バブルへと至った。したがって、金融自由化の過程では、人々は楽観的になりがちだということを警戒しなkればならない。
    日本のこれらの経験から、中国は何が学べるであろうか。第一に、金融自由化の過程において、金利自由化と資本規制の自由化は同時に進行すべきである。金利自由化が資本規制の自由化より遅れ、金融政策が貸出に対する窓口指導に頼らざるを得なくなると、海外からの資金流出入に適切に対応できなくなる。第二に、金融機構のガバナンスと当局の管理監督を整備しなければならない。預金保険制度を実行し、金融機構の退出メカニズムを整備しなければならない。第三に、金融自由化の際にしばしばみられる楽観的すぎる見方には用心しなくてはならない。
    中国の近年の銀行貸出の拡大にはどの程度気を付ける必要があろうか。中国の不動産バブルはもう弾けるのではないかと心配する声もあるが、今すぐ崩壊するというのは現実的でないと考える。ただし、仮にマクロレバレッジ(民間負債の対GDP比率)が近年の速度で3年ほど上昇し続けた場合は大問題である。日本にもかつてマクロレバレッジが急上昇した時期が2度あった。一度目は1970~73年、田中角栄首相が列島改造論を唱え、日本銀行が金融緩和を行った際である。その後オイルショックを経て地価は下降したが、約2年の調整後に再度高騰し始めた。当時の日本は潜在成長率が比較的高かったため、価格調整の悪影響も比較的小さかった。マクロレバレッジも210%に過ぎなかった。これに対して、二度目にあたる1985~91年のマクロレバレッジは255%にも達した。その上日本の潜在成長率ももうそれほど高くなかったため、バブル崩壊の影響が大きかった点は周知の通りである。
    現在の中国は1980年代後半のバブル経済の頃の日本と大きく異なる。中国の第一次産業就業人口比率は約28%であり、1960年の日本と同じである。第一次産業がGDPに占める割合は1964年の日本と同様であり、都市人口率54%は1950年の日本と同じである。したがって、都市化や産業の高度化など、中国はまだ高い経済成長を保持する潜在性が十分にある。多くの研究機構や専門家は中国の中長期での展望について楽観的な見通しであり、中国は減速こそすれど依然比較的速いスピードで成長し続けるだろうと述べている。世界銀行と国務院発展研究センターは共同で“中国2030”を研究し、2030年の経済成長率は5%にまで下がると予測した。中国の経済規模を考えると、5%でもまだかなり高いといえる。以上を総合すると、近年の中国の状況を1990年代の日本と同一視するのは悲観的過ぎるといえよう。しかしながら、今後2,3年間もマクロレバレッジが上昇し続け、250%程度に達した際はとても危険である。現在の銀行融資以外のチャンネルを通じた資金調達は、資本コストが比較的高い。万一レバレッジがさらに高まった状況で、インフレーションが発生し、中央銀行は政策金利を上げるしかない場合、シャドーバンク等の資金調達コストは急上昇するだろう。多くの企業が元利金返済のコストを負担しきれないかもしれない。したがって、私はなるべく早くレバレッジを適切に抑制することがとても重要だと考える。
福本智之(ふくもと ともゆき)
日本銀行北京事務所長。1989年京大法学部卒、同年日本銀行入行。1995年~1997年、香港中文大学・対外経済貿易大学留学後、2000年~2003年在中国日本大使館一等書記官として、中国経済・金融システムの調査、中国金融当局との連絡調整を担当。2008年~2009年、ハーバード大学ケネディスクール客員研究員として中国経済を研究。2010年国際局総務課長、2011年国際局参事役を経て2012年より北京事務所長。主なペーパーに、日銀レビュー「最近における中国の不動産価格の上昇について」(2010年3月)、「中国の窓口指導の有効性と金融環境――日本の金融自由化とバブル期の経験 を踏まえて」(2010年6月)、「中国における経済成長のリバランスについて」(2011年3月)、2013年11月 JETRO中国経済「中国のシャドーバンキング」ほか。
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