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企業実践・百度―――東に渡る

  サービス業の百度(バイドゥ)には、製造業のグローバル化とは本質的な違いがある。中国メーカーが世界市場に参入する際の有利な要素の一つが価格だが、サービス業にそのような強みは存在しない。しかも「検索サービス」は、地域性が非常に強く、現地の文化を理解し、現地の人の生活、習慣の中に溶け込み、本当の現地化をしなければならない。

 

陳海騰 百度ジャパン首席代表

 百度(バイドゥ)は創立以来、「中国語をより深く理解する」という現地化戦略によりユーザーの支持を集めてきた。中国市場で潮流を牽引して以来、李彦宏会長兼CEOは百度の市場を海外に開拓したいと願ってきた。2006年、百度は初めて国を飛び出し、日本市場に進出。李会長兼CEOの管理スタイルは一貫して控え目かつ慎重だが、百度の国際化への期待は、非常に高く持っていた。2008年、李会長兼CEOはメディアに次のような理想の光景を描いて見せた。「15年後、百度の収入の50%が中国以外からやってくる」と。
    六年が瞬く間に過ぎ、百度ジャパンの近況や如何に?東に渡る過程でどのような試練にぶつかり、どのようなグローバル化の経験を教訓として後人に示してくれるのだろうか?日中のビジネス界での取り組みの中で百度ジャパンはどのような役割を果たしてきたのか?雑誌《長江》は、北京の学生街のある図書館において百度ジャパンの首席代表・陳海騰氏を取材した。

日本を知り、交易する
    百度ジャパンは、項兵学院長の提唱する「トップダウン方式」の実践者である。「百度は、中国では誰もが知る有名企業ですが、日本ではほとんど知られていません。当初、当社のマーケティング戦略は草の根作戦―中小企業から百度ブランドを広げることでしたが、まったく局面を打開することができませんでした。」
    模索を続けるうちに陳氏は、「トップダウン方式により日本市場を打開」することを決定した。百度は六本木ヒルズのようなシンボル的なロケーション(世界トップ500企業を集結させた、北京の国貿のようなビル)に 事務所をかまえることによりその実力を示した。
    その後、陳海騰氏は日本政府観光局から「YOKOSO!JAPAN大使(観光大使)」に選ばれ、観光局が百度ジャパンの最大のクライアントの一つとなった。「観光局との協力の実現も、トップダウン式のマーケティング戦略による百度ブランドの宣伝を行ったことによります。」現在、百度ジャパンのクライアントは2006年時のわずか3、4社から300社を超すようになり、NEC、シャープ、トヨタ等の有名企業もその顧客リストに名を連ねる。
新興ブランドが成熟市場に進出することは極めて難しい。サービス産業であればなおさらだ。「サービスを提供する百度は、製造業のグローバル化とは本質的な違いがあります。中国メーカーが世界市場に進出できた有利な要素の一つが価格です。ですがサービス業にはそういった強みはありません。しかも『検索サービス』は、地域性が非常に強く、現地の文化を理解し、現地の人々の生活、習慣に溶け込み、本当の現地化を実現できなければなりません。」
  「本当の現地化を実現するには、まずは現地の人材を抜擢しなければなりません。百度ジャパンの社員はすべて日本で採用し、日本人社員が80%を占めます。会議で使うのは中国語ではなく英語でもなく、日本語です。言葉の現地化により、百度ジャパンは外資系とは思えない日本の会社のようになっています」。
    陳氏自身が、百度ジャパンの日本現地化人材戦略の代表のような存在でもある。1992年に日本に留学、神戸大学修士課程を卒業後、日本電信電話会社(NTT)に入社、その後Indexという名のベンチャー企業に入社、台湾、上海、厦門、韓国の新規開拓を担当した。この会社は今や日本最大のモバイルコンテンツプロバイダに成長している。陳氏はさらにベンチャー企業の中国担当CEOを勤めたこともある。「日本で20年近く生活した経験を経て、私は日本に溶け込むことができました。それと同時に北京での勤務経験によっても中国市場を知ることができました。」
    それにもかかわらず、日本の社員は百度ジャパンでなお慣れないことに遭遇するという。「(中国)国内は、あまりにも変化が速いため、政策決定が何度も修正されます。日本の社員は、プロセス通りに物事を進めていくことに慣れているので、目標と計画を制定した後、一歩一歩遂行していきます。百度が中国で成功した重要な秘訣が、強大な実行力、結果を強調するやり方、任務のすべてにKPI指標があることだったのですが、日本の社員のプレッシャーに対する受容力は、中国人社員ほど強くありません。彼らは努力することに力を注ぎ、結果が特別重要だとは考えていません。このような差異が日本の社員に違和感を感じさせるのです。そんな時、私がその間に立ち、意思疎通を計る必要があるのです。上に説明し、下に通じる、といった具合に。」陳氏は、多国籍企業の現地法人社長にとって最も重要な能力の一つがコミュニケーション能力だと考える。そしてコミュニケーションを成功させるには、上と下の両方を深く理解できなければならない。
    現地化のためには、深く日本市場とユーザー習慣を理解してから、業務を展開していかなければならない。「日本と中国の市場はまったく違います。中国は高度成長期にあり、クライアントや市場シェアの獲得がたやすい環境にあります。これに対して日本のインターネットはすでに成熟した市場であり、ヤフーとグーグルが圧倒的な優勢を占めています。検索分野はヤフー、グーグルと競争することになり、まったく勝ち目がありません。同時に日本のユーザーは忠誠度が非常に高く、百度がグーグルと同じ業務を展開しても、日本のユーザーの使用習慣を変えることは極めて難しいのです。」
    日本の市場とユーザーの特殊性を考慮し、陳氏は、百度ジャパンは中国とは異なる発展戦略を取らなければならないと考えた。「当社では、単純に中国の何かのサービスを日本化するのではなく、日本市場に何が適しているかという角度から考えます。結果的に百度中国と百度ジャパンは完全に異なるサイトになるかもしれません」。
    百度ジャパンは、入力ソフトウェアの制定により新ユーザーを獲得するとともに検索分野の戦略を拡張し、引き続き個人コンピュータ日本語入力(IME)システムを推進する。さらに日本の開発者からスマートフォンの入力技術を買い取った。現在、百度ジャパンはアンドロイド・システムをOSとしたスマートフォン入力ソフトウェアのダウンロード業務において、トップの地位を占める。「百度はメディア会社ですから広告が得意分野す。入力端末の使用を通して新ユーザーを占有した後、百度ジャパンはこれを足掛かりに検索分野に入り、ユーザーの使用習慣に影響を与えることができるでしょう。」
 ビジネスとはいえ、完全に政治と切り離すこともできない。日本で発展しようとする中国企業にとって、業績は両国関係から一定の影響を受ける。「日中関係に問題が起きると、ユーザーが減ります。ですから百度ジャパンは中国企業という背景をできるだけ目立たせず、多国籍企業でありナスダックに上場し、全世界のユーザーにサービスを提供している、百度中国とは兄弟会社だ、将来的に百度の業務の半分は海外になる、という点を強調しています。」


 

2006年、百度は初めて海外展開を行い、日本市場に進出した。李彦宏会長兼CEOは、メディアに次のようなビジョンを語った。「15年後、百度の収入の50%が中国以外からやってくる」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

一致協力し困難を乗り越える
  未来は競争と協力の時代となるだろう。百度ジャパンの検索分野における最大の競争相手はグーグルとヤフーだが、日中経済交流の観点から見ると、百度ジャパンには日本企業の協力パートナーの方が多い。
    グローバル化の過程でこれまでずっと閉鎖的だった日本企業は、未曽有の試練を受けてきた。「台湾鴻海グループがシャープの10%の株を買い最大の株主になりました。レノボ・グループがNECと合弁企業を立ち上げ、レノボが合弁会社の51%の株を所有することになりました。またアップルの世界レベルの統合モデルが、日本の垂直統合モデルを覆しました。」これまで日本企業は自身を完璧に守ってきたが、グローバル化の衝撃を受け、世界への進出を考えざるを得なくなっている。その際、日本の近隣にある中国市場を選ぶことグローバル化戦略の最初の一歩となっている。
    日本企業にその気があっても中国市場を理解しているとは限らない。盲目的に進出しても多くのリスクが待ち受けておりスムーズな発展を遂げられない日本企業が多い。「百度ジャパンは橋渡し役となり、百度中国が蓄積してきたデータにより、中国進出を狙う日本企業が市場ニーズを掴む手助けをすることができます。たとえば、百度にはさまざまなランキングがあり、それを日本のクライアントに提供し、企業側ではそういったデータを中国市場進出の重要な参考とすることができるのです。」
    同様に多くの中国企業が日本進出を狙っており、市場を知りたいという需要がある。「百度ジャパンはそういった中国企業のために関連資源やデータを提供し、日本市場を理解するサポートをし、進出方法の模索の手助けをすることができます。」また多くの中国企業には日本人技術者招聘のニーズがあるが、日本人をどのように引き寄せ、つなぎとめることができるのかがわからない。「日本の企業は終身雇用制を実施し、企業には社員を育成する責任があります。通常、日本人社員の会社に対する忠誠度は非常に高く、精神的にも安定しており金銭的な条件のために安易に転職することはありません。日本人社員は理想のために仕事をしており、会社の理想に共鳴することができなければ中国企業での仕事を選ぶことはあり得ません。たとえ金銭的な待遇がどんなによくても。」
    百度ジャパンが日本で優れた技術者を招聘することができた重要な原因は、彼らが百度の「共有、平等」の理念に賛同すると同時に「百度のエンジニア文化はリラックスでき、気持ちがいいと感じてもらっているからです。百度の日本人社員は、私を陳海騰社長とは呼ばず、そのまま名前で呼びます。管理職も権力によって決定を下すのではなく、技術者を尊重しすべてデータにより説得していきます。」
    「日本メディアによる中国を歪曲した報道は非常に深刻であり、多くの優秀な日本人が中国を仕事の場として選びたくない、もしくは中国企業を選びたくないと思っている最大の理由です。」日中両国にある文化的な相違は双方の企業が、協力を行う際に必ず解決しなければならない問題なのである。
  陳氏は百度ジャパンのコミュニケーション、努力を通して、日中双方の企業の間で互いに理解を深めることができれば、その意義は大きいと感じている。「日中両国の間は、項兵学院長の提唱される方式で協力することができるでしょう。基礎技術分野、プロセス管理、リーン生産方式等の面で、中国は日本と大きな差があり、中国企業のベンチャー精神に日本企業の精巧な製造技術を合わせれば、日中両国にサービスを提供できるだけでなく、世界中の市場に貢献し、東アジアが欧米と肩を並べることも夢ではなくなるでしょう。」

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