コラム

HOME > コラム

コラム

マクロ経済―――アジア一体化、どうしたら可能に

松野豊

    東アジア全体の貿易自由化のためには、まず東アジアの日中韓三国が互いに妥協し、まずは枠組みを作り、各種ルールを制定してから他の国が続けて加盟するのが望ましい。

    南シナ海の波は静けさを取り戻したが、それによって啓発された課題はまだ残ったままだ。それは東アジアの縮図とみてもいいだろう。各国間の経済関係が日増しに緊密となる一方で、政治・軍事的要素が、さらに常に協力に影を落としつつある。
    松野豊氏は、清華大学・野村総研中国研究センターの理事、常務副主任として長年中国の経済発展と産業の変革に注目して来られた。松野氏の東アジア地区の経済協力に対する洞察が、我々に独特な視点を提示してくれるかもしれない。

《長江》:5月13日、日中韓サミットにおいて日中韓三方の投資協定が調印され、年末に自由貿易交渉を始めることが取り決められました。日中韓自由貿易区の最終的な成立を楽観視されていますか。
松野:欧米とは違い、東アジア諸国は互いに政治体制が異なるだけではなく、民族・宗教も多様であり、まだ各国の関係を協調させるシステムが作られていません。東アジアにおいて日中韓の三国は経済的に高いレベルにありますからまずは試してみるといいでしょう。
    日中韓の間にはもちろん軍事・政治的な対立はあるのですが、それをいえばヨーロッパも同様で、それでもEUを形成しています。ですからそういった対立は解決できると私は信じています。しかも今、国と国との間の交流は政府間のみに限らず、民間の交流の方がより重要だと私は考えています。もし日中韓の三国間の民間交流が頻繁になれば、政治と軍事上の衝突も避けることができるでしょう。ヨーロッパはまさにそのようにして解決してきたのですから、我々も見習う価値があります。

《長江》:今、日中韓の三国間貿易の相互補助的な面は、どのようなところで体現されているでしょうか。
松野:日本には強大な核心部品の製造技術があり、中国はその部品を組み立てる高い能力を持っています。日中韓の三国についていえば、日中間の貿易は日本が赤字———つまり輸入超過であり、中韓の間では中国の輸入が超過、日韓の間では韓国の輸入超過となり、ちょうど三角関係を形成しています。このような基礎の上に貿易協定枠組みを成立させることは大変意義のあることです。

《長江》:日中韓自由貿易区の交渉が始まるとしたら、今は良いタイミングですか。
松野:今はあまり良いタイミングではないと思っています。というのは、中国がちょうど高度成長の時期にあり日韓の経済にとっては一種の脅威となっていますから、日韓が自国の発展を冷静に見つめなければならないだけではなく、中国も同様に自身を抑制する必要があるでしょう。

《長江》:このような交渉は非常に長いプロセスを必要とするのでしょうか。交渉がいつ成立するのか今予測をすることはできますか。
松野:研究者の視点から見ると、そのプロセスは非常に長いものになると予測しています。というのは、日中韓の三国の貿易交渉にどのような問題が存在するかということについては、実を言うとすでに明白だからです。もし三国が、ともにさまざまな政治・軍事問題を排除し、気持ちを落ち着けて交渉に臨むことができれば、たちまち合意に達することができるでしょう。しかし、まさに政治面での問題を解決するのが容易ではないために、長い時間がかかるだろうということなのです。

《長江》:東アジア地区全体の貿易自由化はどうでしょうか。
松野:東アジア全体の貿易自由化については、さらに長くかかると私は思います。さらに東南アジア地区を加えると、もっと多くの問題があります。日本はかなり前から東南アジアで多くの工場を建て、すでに完成度の高い産業チェーンを作り上げています。今後、中国と韓国も東南アジア地区に向けて発展していこうとしているため競争が激しくなり、状況はさらに複雑になるでしょう。
    このほかインドなどその他のアジア諸国が、一体化に加わりたいと思っているのかどうかということも問題です。私はまず東アジアの日中韓三国が互いに妥協して先に一つの枠組みを作り上げ、各種ルールを制定してから他の国々が加入していくのが望ましいと思っています。特に中国と日本(が先に枠組みを作ることが重要)です。

《長江》:ASEAN諸国において現有する協力の枠組みは、どのように将来の東アジア経済一体化とつながることになると思いますか。
松野:一人の研究者として、ASEAN諸国と日中韓の間の協力の障害となっているのは、やはり主に政治問題だと感じています。今、中国は東南アジア諸国とも政治的な問題がありますね。最も重要なのは、やはり互いに信頼できる外交関係を築きあげることです。
    このほか、自国の国民が豊かになることが大前提です。これは非常に重要なことです。現在中国はおそらくこの問題を最も重視していると思いますが、中国は今、東南アジア諸国とさまざまな協力を進め、ともに発展し、ともに資源を調達し、ともに豊かになろうとしていますね。対する日本はこの点で大きな問題を抱えています。というのは(すでにある程度の発展を終えた)先進国ですから。日本は中国とさまざまな交流・協力を展開し、東アジアに適した市場を築き上げるために努力をすればいいのかもしれません。
    日本はこれまでずっと欧米諸国に学び、欧米諸国とさまざまな経済交流・協力を進め、東南アジア諸国との交流・協力の経験が少ないのです。ですが実を言えば、日本は欧米諸国から不公平な扱いを受けることも多くありました。そういう経験を東南アジア諸国と共有し、ともに東アジアに適した枠組みを作り上げることができたら良いと私は思っています。

    経済が衰退期に入り、失業率が高く、企業・工業の赤字、融資資本の高騰すべてがスペインに大きな脅威をもたらした。松野豊先生は、スペインの危機は注意すべきだという。

 

 

 

 

 

 

 

《長江》:アジア各国間の経済交流の中で、中国はどのような役割を担うことができるのでしょうか。
松野:中国には巨大な市場がある一方で、この十年、中国は製造業の分野で欧米諸国との間にも多くの貿易協力関係を培ってきました。東アジア諸国間の協力の枠組みを作る際には、この分野での経験を他国と共有することができるでしょう。

《長江》:6月から人民元と日本円の間で直接決済ができるようになりましたね。このことの意義をどのように見ておられますか。人民元の国際化の進捗をどのように予測しておられますか。
松野:人民元と日本円の直接決済はごく当たり前のことだと思います。日中間には多くの貿易の往来があり、貿易量は莫大な規模になるのですから。通貨の面での交流も多いことでしょう。
    ある通貨の国際化を実現するための最初の条件は、他国から一定の信用を得ることです。現在、世界は中国の経済と金融体系をまだあまり信頼していません。昨今の欧州債務危機のようなものですね。もし中国が更なる貢献をしないなら、人民元の国際化という問題が取り上げられることはあまりないだろうと私は思います。
    貢献をするためには、お金、労力を出すというだけの問題ではありません。実をいえば、中国にはヨーロッパ諸国に教訓として提示できる「智慧」がたくさんあるのです。私には、中国は現在、あまり人民元の国際化を願ってはいないように思えます。もし少し調整を加え資本をさらに自由化するとか、もしくはレートをよりフレキシブルにしたら、人民元の国際化のよい契機となるでしょう。
    日本が当初日本円を自由化したことを、アメリカの圧力のためにやむに已まれずにそうしたのだという見方が中国にはありますが、当時の日本側はバブル経済がはじけることをすでに認識しており、その一方で日本円の自由化は日本経済の長期的な発展に対してメリットがあることでした。当時、日本経済はすでに非常に発展しており、日本円を自由化しないことはもはや不可能となっていました。

《長江》:では、中国はどのように人民元の国際化を推進するべきだと思いますか。
松野:人民元と日本円を直接両替するのは、望ましい発展条項です。中国が心配なら、日中韓の三国間でまずは通貨を共通にし、そこから少しずつ他の地域に拡大していくのが賢明なやり方でしょう。中国が憂慮するのは当然です。今のヨーロッパの経済危機のように、ギリシャが破産すれば中国の通貨に非常に大きなプレッシャーとなることでしょう。

《長江》:今年、中国経済の成長速度は少し緩くなってきました。このような傾向をどのように評価されますか。
松野:中国は人口が多く、市場が大きく、優れた人材も大勢います。GDPはこれからも増え、欧州経済危機の影響をあまり大きく受けることはないでしょう。中国は今、産業における付加価値の増加、自主イノベーション、循環経済を提唱していますが、その推進があまり進んでいるとは思えません。
    現在、欧州の経済危機は非常に深刻ですから、中国は経済発展のためにGDPに対して少し敏感になっています。そのために一部の調整を行い、例えば公共投資を行ったり、または資源型企業への補助をしたり、つまりは以前と同じ経済政策を実施しています。このまま発展していけば、5年、10年後には問題が起きることになるでしょう。エネルギー危機、環境汚染などの問題が浮き彫りになってくるはずです。

《長江》:では、中国はどのように経済のモデル転換をスムーズに進めていくべきだと思いますか。
松野:中国が今、経済のモデル転換を実施するためには、二つの面が重要になってきます。一つは産業政策の調整です。民間資本、機構により大きな役割を持たせることです。このほか特定の利益集団が存在することが非常に深刻な問題となっています。もしうまく解決できなければ、モデルの転換は非常に難しいものとなるでしょう。 患者の病気を治療するのと同じことです。医者は治療のために、これも食べてはいけない、あれも食べてはいけないと言うでしょう。 もし病人が自己犠牲を覚悟しなければ病気を治すことは難しいでしょう。中国経済にはなお多くの不確定で公開されていない部分があります。

《長江》:欧州債務危機の解決はどのように予測されますか。危機の蔓延と拡大化の可能性はどれくらいありますか。
松野:ヨーロッパの危機は金融危機であり、人為的に起こされたといっていいでしょう。ですから、自身の枠組みの中で一部の規則を変えれば解決できるはずです。
    ヨーロッパ経済には非常に長い歴史があり基礎がしっかりしています。金融危機を乗り越えるのに特に大きな問題はないでしょう。今、サッカーのヨーロッパ・カップが正常に開催されており、各種祝賀イベントもたくさんあります。実際には危機はそこまで深刻というわけでもありません。ヨーロッパ人はやはり楽観的であり陽気な性格です。中国人や日本人のように、以前悲惨な歴史があったために悲観的ということはありません。国の首脳陣は大変でしょうが民衆はそんなに大変だとは考えていません。

《長江》:中国と日本は、どのような影響を受ける可能性がありますか。
松野:それは当然、一部の影響はあるでしょう。影響は主に貿易方面であり、貿易量が減少するでしょう。ですが中国と日本は、国そのものの経済規模がすでに非常に大きいため、それほど大きな影響にはならないでしょう。前回の経済危機の時は中国も日本    も影響は受けましたが、両国の金融機構は欧米諸国とあまり関わりがなかったのは幸運な面といえるでしょう。
中国や日本のような国は、たとえある程度の犠牲を払ったとしても、EUが危機を乗り越えられるよう助けるような取り組みをするべきだと私は思います。人を助けにいけば、いつか人も助けに来てくれるでしょうから。

《長江》:ギリシャがユーロ地区を脱離する可能性について、憂慮するべきでしょうか。
松野:ギリシャが世界経済に占める割合は、大きくありません。規則を少し変えさえすれば、危機を乗り越えることができるでしょう。各国が自分のことだけ考え、他国のことはお構いなしという状況が起きない限り、あまり大きな影響はないでしょう。私が今憂慮するのはスペインとイタリアです。それからヨーロッパの銀行が大変なのではないかと心配しています。

MBAビデオ
アクセス
お問い合わせ
コラム