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元・米大統領経済諮問委員会委員長のアラン・クルーガー氏が経済と雇用を語る

アメリカ経済が停滞から回復するにつれて、労働市場は順調に改善しつつある。失業率は4月に5.4%まで低下したが、これは2008年5月以来の最も低い水準であり、週ごとの新規失業保険申請件数も徐々に減少している。しかしながら収入面ではまだバラ色とは言えない。今年4月の時給は昨年同期に比べて2.2%しか増加していない。これは、かろうじてインフレ率を上回る数値だ。

収入の伸び悩みはアメリカの中流層に不満をもたらし、最低賃金(連邦レベルでは7.25USドル)で生活していかなければならない低所得者層を取り巻く状況は更に悪化している。しかし、最低賃金の引上げは中小企業の収益を圧迫し、ワーキングプアを増やすと物議をかもしかねない。
しかし、プリンストン大学教授のアラン・クルーガー氏はそれに異を唱える。クルーガー氏は2011年11月から2013年8月まで大統領経済諮問委員会委員長、2009年3月から2010年10月まで財務省の財務次官補(経済政策担当)を務めた人物だ。

「過去にも最低賃金の引き上げを行ってきましたが、雇用に悪影響を及ぼしたことはありませんでした。州の多くが引き上げに消極的ですが、これが実施されれば低賃金労働者を救うことになると思います」

今回は、クルーガー氏へのインタビューの一部をご紹介する。

Q:リーマンショックが起こった2008年以前のアメリカ経済と現在を比べるといかがでしょうか?


A:今のアメリカ経済の足元は経済危機前よりも力強いと思います。完璧ではないものの、改革により金融システムの脆弱点が改善され金融業界が強くなったと考えています。その一方で非常に困難な時期が後々まで影響していると思います。投資はスローダウンし、期待した通りの成長を統計に見出すことはできませんでした
しかし、現在の雇用の伸びは、停滞前よりも強い。失業率は停滞前の水準に戻り、賃金上昇への兆候も見えます。実質賃金も伸び始めました。GDPの伸び率は未だ望ましい水準ではありませんが、世界のほとんどの国よりは強いのです。以上のことから、アメリカ経済の回復は今後数年にわたって続くと考えます。


Q:労働市場においては一つの問題があります。求人が増えているのはファストフードチェーンのような低賃金労働者がほとんどだという事です。この傾向も続くとお考えですか?

A:30年間にわたり最高賃金もしくは最低賃金レベルの需要ばかりが伸び、中間層が伸びなかった、そして、今もそれが続いている。その流れが一夜で変わることは期待できませんし、これまでの対策が十分でなかったとも思います。
長期的な構造変革に必要なのは人材、インフラ投資、中レベルのスキルがある労働者への需要増加、労働者のスキルアップです。改善はしていますが、まだ十分とは言えません。

Q:テクノロジーの発展で多くの職種が不要になりました。これら雇用の機会が必要な労働者に対してどのような支援ができるでしょうか。

A:アメリカの歴史を見ると、主な産業が第一次産業から第二次産業、そして第三次産業へとシフトしてきたことが分かります。そして、これから我々は"ポスト第三次産業"時代へと移行していくことになります。そこで過去に起こったような現象、つまり、テクノロジーの進歩により職を失った労働者が苦労に直面するということが起こるでしょう。その時、我々アメリカ国民は、彼らを支援しなければならないと思います。なぜなら、失業は彼らに非があるわけではなく抗うことのできないものだからです。

全く違う職に就くというのは大変なことです。彼らの求職活動中に家族を養ったり、新たな職に向けての職業訓練の場を提供できるような社会的セーフティネットの存在が重要です。例えばアメリカでは過去数年どころではなく、過去25年にわたって製造業が縮小する一方で、介護分野が成長しています。しかし、だからといって、製造業から介護関連の職に就こうとしても、そう簡単にはいかないケースも多いのです。 また、新たな成長産業が雇用を生み出し、急速に生産性が向上する産業の余剰人員を吸収できるよう、アメリカ経済がフレキシビリティを持つことも大切だと思います。

アメリカの雇用と経済の行方は?

Q:貧富の格差問題もあります。低所得者層では所得が伸び悩んでいるのに、富裕層では増加している。政府からみれば最低賃金を引き上げも格差是正の一処方でしょう、しかし、それはしばしば労働市場のマイナスになるという議論を引き起こします。

A:最低所得レベルでの賃金低下傾向は最低賃金の浸食が起こったからです。多くの州で引き上げの動きが見られますが、まだ国家レベルには至っていません。.数年前、オバマ大統領は最低賃金を時給10米ドルまで引き上げるよう提案しましたが、未だに議決されていません。多くの州が反対しているからですが、これが実現すれば状況は変わると思います。

私はそれが彼らの職を危険にさらすとは思っていません。過去にも賃金引き上げを経験していますが、それが雇用に不利な影響を与えてはいません。最低時給が10米ドルと言うレベルなら雇用に影響することなく低所得者層の収入を引き上げることが可能だと思います。

他に労働組合の組織化促進という方法もあります。組合の組織化が難しくなっていますが、フリーランサーの組合加入支援なども一つです。また、成長している分野もあります。例えば、ウーバーのドライバー、フリーのフォトグラファーやライター等です。例えばフリーランサーズ・ユニオンと呼ばれる組織があり、そのような人々を支援しています。オバマ大統領の下で医療費負担適正化法が可決されそのような動きを加速しています。


Q:ウォーレン・バフェット氏はウオールストリートジャーナル紙で勤労所得税額控除の拡大がワーキングプア層の収入増に貢献すると発言していますが、これについてはどうお考えですか?

A:最低賃金の引き上げだけで十分でないという点には賛同します。しかし、解決策の重要な部分は最低賃金の引き上げと既存の税制及び所有移転の併用にあると考えます。


Q:このところ中国の製造拠点のアメリカ回帰トレンドが話題です。これをアメリカ経済にとってプラスなのか、単に賃金が上昇していないからなのか、どうお考えですか?

A:これは前向きな動きだと考えますが、一方で全体を俯瞰することも必要です。ファンダメンタルで起こっているのは、世界経済は平衡しているということ。中国での賃金は劇的に上昇しました。それは現状のインフラが限界に近付きつつあるからです。一方でアメリカは製造業における賃金が低下傾向にあり、労務費が中国や諸外国と競争できるレベルになり、製造拠点ができてきた。アメリカは2000年代に、製造業において7百万人近くが失業し、経済が回復し始めてから100万人程度求人が増えました。全ての職を回復するには至っていませんが、良い方向に向かっています。 


Q.賃金上昇は中国経済にどう影響するでしょうか?

A:中国にとっては健全だと考えます。中国経済が直面する重要な問題の一つに内需拡大がありますが、内需の多くを家計消費が占めるというのは合理的です。中国の成長が鈍化する局面にあっては家計消費の拡大はより重要性を増すと思います。

Q:ステファン・ローチ氏は、著書の"Unbalanced, the Codependence of America and China(失われた均衡-アメリカと中国の共依存)"の中で、中国は消費の増加、アメリカは貯蓄と投資が必要だと述べていますが、このような変化は起きると思いますか?

A.アメリカの消費はわずかに低下しています。収入は増加しており、かつ原油価格の下落によってエネルギー関連料金が低下しているのにもかかわらず消費が増えないと言うのは少々不可解な現象です。

しかし、最大の変化は中国国内で起こると思います。消費はGDPと相関関係にありますが、中国の消費は経済発展が同レベルの国の消費よりも低いのです。 

中国国内の格差縮小には年金の保証が一役買うのではないでしょうか。中国の一般家庭が貯蓄に励むのは老後を心配してのことだと思います。年金が確実に給付されるなら、人々は今の収入を消費に回し、中国経済が低成長の時代にあっても生活の質を高めることができるのです。


この記事は下記を翻訳・編集しています。

http://knowledge.ckgsb.edu.cn/2015/06/01/economy/alan-krueger-on-job-growth-and-us-recovery/

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