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「外国投資法」がもたらす影響とは?

1月19日、中国商務部は外国投資について新たな時代が来ることを予見させる「外国投資法」の草案と説明文書を交付し、意見を公募した。

報道官のスピーチとともに公布された草案は、単なる現行法の改定版ではない。中国で活動する外資企業にとって、緩和・規制の両面で根本的なルールを変える可能性がある。中国のIT企業及び複数の多国籍企業が採用している変動持分事業体(以下VIE)について与える影響について、様々な憶測がメディアを駆け巡ることとなった。

この法律の影響については、まだベールに包まれている。しかし、国際連合貿易開発会議の資料によれば、昨年度、中国はアメリカを抜いて海外からの直接投資先として世界一となっていることから、主要な多国籍企業の関心事となることは必至だ。

今回は、3名の専門家に意見をお聞きした。
Clifford Chance パートナー Terence Foo氏(以下Foo氏)
Wilmer Hale パートナー、在中米国商工会議所法律顧問 Kenneth Zhou氏(以下Zhou氏)
Harris & Moure パートナー Steve Dickinson氏 (以下Dickson氏)


経緯

現在の中国では外国投資への規制が蜘蛛の巣のように複雑に絡み合っている。1990年代に経済が開放され、市場志向が高まったことと中国のWTO加盟に向けての準備が加速した時代に作られたからで、外資系企業の形態などを特定の項目に関する法律をはじめ会社法や契約法など一般的な法律も含まれる。

海外投資家が特に注目してきたのは、1995年に制定され概ね3年ごとに改定されてきた投資カタログだ。これは、投資のガイドラインとなるもので、様々な業種を"奨励""制限""禁止"の3つに分類している。なお、カタログに記載のない場合は許可された業種と考えられている。直近のカタログは昨年11月に草案が出され4月に改定された。草案は明らかに規制が緩和されたものだったが、EU商工会議所は"前向きではあるが、EU商工会議所の期待に沿うものではなく、市場をコントロールしたいという中国政府の意向を反映した小規模な改定"とコメントし、上海自由貿易区で最初に採用された(投資の制限・禁止する業種を記載した)ネガティブリストの見直しを主張した。

また、現行法はVIE台頭にもつながった。アリババをはじめ、テンセントやバイドゥなど主にIT企業を中心とした海外上場企業がこの形態をとっている。これは、海外上場会社、そのオンショア子会社、国内企業のそれぞれがサービス契約を締結することで海外からの投資が可能になる形態だが、この草案により早急に移行を迫られる可能性もある。


改正の機は熟した

Foo氏「現行法制定されてからかなり時間が経っているため、政府は根本的な見直しの時期が来ていると考えているのでしょう」

Zhou氏「草案は外国投資に関連した複数の法令を統一できる可能性があります。」

Dickinson氏「現行法は中国における外資系企業の現実を無視したもので、機能不全に陥っている。改正の機は熟したと思います。」
草案は、現行法の中でも特に外資系企業の関心が高い、設立や活動手続きを簡素化するものだ。

Dickinson氏「会社法としては現行法よりも理解しやすい。"外国投資法"というよりも"外国企業法"というべきものです。」

Foo氏「いまの中国では、2種類の異なる法規があり、一つは外国企業に、一つは国内会社に適用されている。規制の枠組みを一致させ両者の足場を対等にしたいという意向もあるのでしょう。」

また、現在、中国での外国企業設立には長い時間と煩雑な手続きが必要だ。

Dickson氏「規制されていない業種の国内企業なら2週間で設立できるのに対し、外資系企業の場合は一番簡易な手続きですむ法人であっても、少なくとも4-5カ月はかかりコストもかさみます。中国で企業を設立する場合、外資が関わっている要素があれば、会社設立を認可するだけではなく、投資全体をチェックしているのです。担当の役人はその分野の専門家ではないため、その設立が適当か否かは投資カタログに照らし合わせて決定しています。」

ここで、EU商工会議所のコメントが思い出される。草案には先に触れたネガティブリスト導入が組み込まれているということだ。リストにない業種の会社設立は今より簡素な手続きで済むようになるが、Foo氏はこれを"過激な船出"と表現する。

もう一つ重要なのは、アメリカの対米外国投資委員会にあたる中国国家安全審査に関する項目だ。これは商務部が2011年に導入し、国家の安全に影響を及ぼす可能性のある投資案件を綿密に審査する制度で、草案は特定はしていないものの、現行よりも広い業種を審査対象にするべきとしている。さらに、不服審査や司法審査も安全審査の決定を覆すことはできないという。
Zhou氏「この草案では、国家安全審査が独立した章として扱っています。審査導入からこれまでは注目に値するような案件はありませんでしたが、中国政府は審査を厳しくする方向にあると考えられます。」


VIEの行方は?

草案では特に触れていなかったが、最も注目を集め議論の的となるのはVIEへの対処だろう。

Zhou氏「いくつかの条項はVIEに影響を与える可能性があります。一方で添付の説明文書では、VIEに複数の移行措置案を示しています。」

Dickson氏「中国政府はVIEは違法であり、是正が必要だと明確に示したというのが率直な印象です」
草案が会社の"支配"をどう解釈するかによりVIEへの影響も変わってくる。中国では100%中国人出資の企業だけが事業に必要な許認可を取得できるため、VIEは外国投資の迂回路として活用されてきた。この草案では、実質支配の概念を導入しており、国内企業でも外国人が実質支配していれば外国企業、中国人が実質支配する外国企業は国内企業として解釈される。

Foo氏「この"支配"の解釈には幅があります。株式の50%を所有するとか役員任命権があるということではなく、役員会あるいは株主総会に影響を及ぼすことができる、または契約上の取決めを通じて決定的な影響力を持つ、ということが重要になります。」

Dickson氏「VIEは上場していますから株主がいます。この法で解釈するとVIEの個人株主達が外国人だから、外国人が実質支配していることになります。となると、書類上はともかく実際は機能しないのではないでしょうか。例えば、中国人が外国企業の実質支配を試みる、となれば、企業の中国人エグゼクティブは株主対して権利放棄契約を提示することになりますが、株主が同意することはないと考えられます。」

さらに、Dickson氏は政府には実質支配者を見極めるノウハウがないこと、Foo氏は外国国籍を取得した中国人の扱いが不明瞭のため、問題は一層複雑になると指摘した。

規制対象外の業種には全く影響がない一方で、ITや情報など、安全審査が適用される可能性のあるVIEへの対処は明確ではない。

Foo氏「(条件により、新法が適用されないという)既得権条項がない代わりに、説明文書の中で、VIEが中国人の実質支配を報告する、実質支配者の認定申請をする、外国投資許可の申請をする、という3つの代替案を示しています。中国政府はVIE普及の現実を十分に認識しているはずですし、大きな関心を持たれていることもあり性急な行動はとらないと思います。争点は、実質的な既得権を適用する対象と範囲にあると言えるでしょう。」

Zhou氏「政府もどう進めればよいのか模索しているかもしれません。商務部のプレスリリースや説明を見る限り、まだはっきりとした方針は定まっていないと思います。現存するVIEの取り締まりは現実的には難しい。というのも、VIEの数の多さや与える影響の大きさだけではなく、VIEは商務部をはじめとする政府機関による認可や届け出を必要としない"契約"だからです。そこで先行きが不明確にもかかわらず、多くの企業がVIEという形態を保持しています。」

施行後のVIEへの対処は不明だが、政府は実態を十分把握しており、国家安全体制を強化してゆくのは確実だろう。


VIE以外にも不安が残る

ネガティブリストの緩和と、規制の統一を行うことから外国企業は草案を前向きなものと捉えているが、VIE問題の他にも不安は残る。

Foo氏「外国企業には(国内企業にはない)情報報告の義務が課されることになります。一般的な外国企業の認可基準が緩和される一方で、例えば、国家安全審査を通じて対象業種の外国企業への介入も可能になります。」

Zhou氏「その方法が問題です。国家安全審査は最近適用されている独占禁止法のように、中国政府が産業政策を推し進める手段となりえます。」

この草案には非現実的な側面もあり、いくつかの条項は情報提供や開示の面で不必要な争議をもたらし施行を妨げることになる。また、Zhou氏は施行後に出される施行規則案詳細の中に本当の問題が隠れていると指摘する。


成立・施行の時期

成立までには、国務院、最高の国家権力機関である全人代、規制委員会などによる承認が必要だが、全人代の年間立法計画および国務院もこれを最優先にはしていない。中国では法律の成立に時間がかかるため、施行はまだ先となる可能性もある一方、2017年には成立すると考える専門家もいる。また、政権が変わった場合には、根本から変わることもありえる。

Dickson氏「今回の文書はこれまでに発表されてきた草案とは異なる性質のものです。過去には不法行為法成立まで数年を要したという事例があるので、時間がかかる可能性があります。施行時期は今年後半に発表されると思いますが、万一、廃案になるなら初秋には別の草案が公布される可能性もあります。」

本記事は下記を翻訳・編集しています。
http://knowledge.ckgsb.edu.cn/2015/06/25/finance-and-investment/rules-of-the-game-changes-in-chinas-foreign-investment-law/
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